研修転移を阻害する壁の克服法

書籍

はじめに

弊社は、eラーニングシステムを開発・運用している会社です。
そこで、私たちのシステムがどのように使われているのかを理解すること、システムを使ってどのような
研修を構築するのが望ましいのかを提案する目的で、「研修」に関する勉強会を開きました。
勉強会では、『研修開発入門ー研修転移の理論と実践』(ダイヤモンド社)をテキストに使い、「研修転移を阻害する3つの壁の克服法」というテーマのもと、本書を読解していくというスタイルを取りました。
本書は「研修で学んだことを、いかに現場で実践し成果につなげてもらうのか?」というテーマについて
論じており「やりっぱなし」の研修を防ぐための理論や方法論、実践例がバランスよく網羅されています。
また勉強会のテーマは、第一著者である中原 淳氏の立教大学 経営学部 中原淳研究室のブログに「研修転移を阻害する3つの壁」についての紹介があったので、そのことにヒントを得て設定しています。

では勉強会の内容をもとに「研修転移を阻害する3つの壁の克服法」について見ていきましょう。

研修転移とは

まず本書の中核的概念である「研修転移」という言葉の説明です。
「研修転移(Transfer of Training)」とは
1.「研修の中で学ばれた知識やスキル」が実際に「仕事の現場」で実践され、(一般化)
2.参加者の「行動」が変わり、現場や経営に「成果」を残すことができ、(経営に資すること)
3.かつ、その効果が持続すること(持続)
「研修転移」の定義は、上記の3つの要素から成り立ちます。
研修を行った結果、2.参加者の「行動」が変わり、現場や経営に「成果」を残すことができなければ意味がありません。
またそのためには「やりっぱなしの研修」を防ぐ必要があります。
「やりっぱなしの研修」を防ぐには、1.研修内容が実際に「仕事現場」で実践され、3.その効果が持続することが必要となります。
つまり、「やりっぱなしの研修」と対極にある、「研修転移が起こる研修」こそ「研修のあるべき姿」であるといえます。

研修転移を阻害する3つの壁

ではさっそく研修転移を促していきたいところですが、研修転移を阻害する壁が存在します。
一般に研修転移を阻害する壁は下記の3つです。
 1.「記憶の壁」
 2.「実践の壁」
 3.「継続の壁」
第1の「記憶の壁」は、「研修で学んだことが、なにひとつ記憶すらされていない」という壁です。
予習もなく、復習もなく、ただ何となく研修に参加しただけという状況では「記憶の壁」に阻まれやすくなります。

第2の「実践の壁」は、「研修で学んだことを、本当にやってみるかどうか」という壁です。
「やってみるかどうか」には2種類の問題があります。
それは「参加者のモティベーションの問題」と「機会の問題」です。
前者を高めるためには、研修の最後に、講師による参加者への「自己効力感」を高める働きかけが重要になってきます。
後者の「機会の問題」に関しては、参加者の上司への通知や巻き込みなどを行う必要があります。
研修転移にもっとも影響を与える要因のひとつは、参加者の上司や同僚の態度やサポートであったりします。
うまく上司や同僚、特に上司を巻き込む工夫をしていきましょう。

第3の「継続の壁」は、「研修で学んだことによって始まった実践を継続できるかどうか」という壁です。
実践を継続するためには、モティベーションを維持したり、継続できる機会や職場環境を整える必要があります。
モティベーションを維持するためには、インターバル型研修を導入して研修を2段構えにするなどの工夫が求められます。
つまりは、やらなくてはいけない環境を作り出すということです。

ここまでで3つの壁の紹介と軽く対応策について触れてきましたが、記事の最後でもう一度克服法についてまとめていますのでご覧ください。

カークパトリックの「4レベル評価モデル」

研修転移研究のルーツや多くの研修転移に関する先行研究もありますが、主要なテーマに的を絞って紹介します。
実務家または研究者の間で広く知れ渡っているのが、アメリカの経営学者カークパトリック博士が
1959年に提案した教育評価法モデルの「4レベル評価モデル」です。
評価モデルには、下記の4段階のレベルが設定されています。

レベル1:反応(Reaction)
レベル2:学習(Learning)
レベル3:行動(Behavior)
レベル4:成果(Results)

「レベル1:反応~レベル4:成果」の内容の概略を付記しておきます。
レベル1の反応は、「研修に対する印象」をアンケートによって評価し、主に「満足感」や「自己効力感」をはかります。
レベル2の学習は、「知識や技術の定着」をはかるもので、確認テストやロールプレイをして評価します。
レベル3の行動は、「学習内容の転移や職場の行動変化」をはかるもので、アンケートやインタビュー、行動観察を通して評価します。
レベル4の成果は、「ビジネスへの影響」をはかるもので、売上、利益、退職率などで評価します。

従前の研修評価がレベル1の反応、レベル2の学習までだったのに対し、
カークパトリックの4レベル評価では、レベル3の行動、レベル4の成果まで拡張されています。
行動に変化が起こり成果を上げることが「研修転移」であったので、
この4レベル評価に「研修転移」という概念の萌芽を見ることができます。

研修転移の測定図

次に研修転移の測定図を見ていきましょう。
縦軸に研修実施者のコントロール度、横軸に評価に影響を
与える要因の数をとる2軸平面があります。
評価項目が少ない「レベル1:反応」と「レベル2:学習」は研修実施者のコントロール度が高いですが、評価項目が多い「レベル3:行動」と「レベル4:成果」はコントロールが
難しいことが分かります。
最も評価項目が複雑な「レベル4:成果」と「レベル1:反応」、「レベル2:学習」を結ぶ架け橋になるのが、レベル3の行動であることがグラフから読み取れます。
つまり、研修転移の最も重要な成功要因は、レベル3の行動であるといえます。

転移マトリックス

ここからは研修転移の促進策について見ていきたいと思います。
下記の転移マトリックスは、研修転移に対する影響度と使用度を表にしたものです。
この表を見てみると、赤で囲んだ部分、マネージャー(上司)の研修前と研修後の影響度が高いことが分かります。その割に使用度(働きかけ)が不十分であることも見て取れるはずです。
「実践の壁」の問題の1つである「機会の問題」を克服するには上司の巻き込みが大切であることは「研修転移を阻害する3つの壁」の項で
述べました。
この転移マトリックスから、研修転移を促すために上司を巻き込むことがいかに重要かが理解できます。

研修転移を阻害する3つの壁の克服法

次の研修転移促進策の表は、本書、第1部「研修転移の歴史、理論的枠組み、実践策」の要約のような表になります。

この表から今回の「研修転移を阻害する3つの壁の克服法」について、下記に一応の結論を与えています。

1.記憶の壁の克服法
反転学習         :事前課題によるインプットを行い、研修中は、確認テストや応用問題などの演習を行う
アクティブラーニング   :双方向、学習者参加型の研修を行い、強く研修内容を印象付ける
インターバル型研修    :再トレーニングを行うなど、研修を2段構えにする。

2.実践の壁の克服法
職場マネージャの巻き込み :対話により受講者のモティベーションを高めたり、活用機会を創出する職場作りなど
アクションラーニング   :現場での課題解決を行う研修をする
講師による働きかけ    :目標設定を明確に行う、受講者の自己効力感を高める、電話コーチングなど

3.継続の壁の克服法
インターバル型研修    :研修を2段構えにし、やらざるを得ない状況を作り出す
職場マネージャの巻き込み :対話により受講者のモティベーションを高めたり、活用機会を創出する職場作りなど
講師による働きかけ    :目標設定を明確に行う、受講者の自己効力感を高める、電話コーチングなど

まとめ

ここまで勉強会の内容を駆け足で紹介してきました。
「研修転移を阻害する3つの壁の克服法」というテーマで本書を読解してきましたが、実際には3つの壁の克服法に関して、
研修転移促進策を峻別して3つのグループに分けることができない部分もあり、飽くまで恣意的判断での記述ですのでご了承ください。

またもう少し体系立てて知りたい方は、本書の第1部「研修転移の歴史、理論的枠組み、実践策」をご覧ください。
さらに本書、第2部では、「研修転移の実践事例」も載っています。私は実践事例としてファンケルの事例が強く印象に残りました。
ファンケルの事例は、「反転学習」と「研修の内製化」がキーワードですが、研修前にマイクロラーニングを導入した予習動画を用いたり、
研修中はアクティブラーニングによる双方向の研修を実施していたりと、最新の研修手法を多く取り入れています。
その中でも特に注目したいのが、研修後のアンケートに研修転移を測るための4段階モデルを取り入れていることです。
「研修転移」という概念の誕生の経緯はカークパトリックの4段階モデルなわけですから、研修転移を測るアンケートに4段階モデルを
取り入れない手はないでしょう。

さて現在、社会は VUCAの時代と呼ばれています。VUCAとは、Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字から構成される、将来の予測が極めて困難な社会の状況を示す造語です。
このような変動の激しい不確実な時代においては、常にアップデートする企業以外は生き残れないのではないでしょうか。
そのためには、改めて研修の意義を考え直さなければいけません。「やりっぱなし」や「レクリエーション」のような研修をやっていてもよい時代は終わりました。
研修転移の定義に、「経営に資すること」という要素があったのを覚えていますか。研修は成果がでなければ意味がないのです。
その成果を出すために、一度本書を手に取って、研修の在り方や組織運営の在り方を学ばれてはいかがでしょうか。

参考文献

『研修開発入門ー研修転移の理論と実践』(ダイヤモンド社)
新刊「研修開発入門 ー 研修転移の理論と実践」のお知らせ!|  NAKAHARA-LAB.net
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/9092
「研修」を入社後活躍につなげるためには?『Transfer of Training』に学ぶ「研修力」
https://corp.en-japan.com/success/10495.html

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